第一章
踏切の警報機が鳴り始める、少し前。
奏は気づく。光が変わる瞬間がある。夕方の五時すぎ、太陽が路地の奥まで差し込んできて、電柱の影が長く伸びる。その数秒だけ、町全体が金色に染まる。
藤村奏は古いカメラを構えて、踏切の手前に立っていた。
カン、カン、カン。
遮断機が降りてくる。線路の向こうから、路面電車がゆっくりと近づいてくる音がした。レールが微かに唸り、電線がたわむ。
奏はシャッターを押した。
町の写真を撮り始めて、もう四年になる。最初は何となく始めたことだった。仕事の合間に、休日に、雨の日も晴れの日も。気がついたら、この町のあらゆる角度を撮り続けていた。
路面電車が通り過ぎると、踏切が開く。人々がまた歩き出す。
奏は液晶画面で今撮った写真を確認した。電車の側面に夕陽が反射して、まるでオレンジ色の水が流れているようだった。
悪くない、と思った。
アパートに戻る途中、スーパーに寄った。野菜売り場の前で少し迷って、玉ねぎとにんじんと、白菜を一玉買った。
理由は、はっきりとはわからなかった。
ただ今夜は、温かいスープが飲みたかった。
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