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あったかい日常

喫茶ベルーガ大冒険記

一枚のコインが見つけた、毎日の大冒険。

あらすじ

喫茶ベルーガのパチスロ機二番台に住むベテランコインのベル。新入りのピコ、無口な古株ドン、騒がしいリール三兄弟、投入口のおじさんとともに、投入、払い出し、床への落下、そして大ボーナスを経験していく。小さな機械の中で繰り返される一日が、ベルたちにとってはかけがえのない冒険になる、にぎやかで温かな超短編。

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第1章

第一章 おはよう、ベルーガ

ジャラ。
ジャラ、ジャラ。

朝だ。

ホールの照明がカッとつく瞬間——おれはいつも、その光を薄い毛布の隙間から感じる。

「おれ」というのは、五百円でも百円でもない、ごく普通の一枚のコインだ。名前はベル。喫茶ベルーガのパチスロ機二番台に住む、ちょっとしたベテランである。

「家」と呼んでいるのは、払い出し機構の手前にある、くたびれた内部クッションのくぼみだ。薄い毛布みたいなクッションは、もう何年も使われているせいでペタンコになっている。でもそこが好きだ。柔らかくて、温かくて、ほんのり誰かの手の匂いがする。

「ベルー、起きてー」

隣から声がした。

ピコだ。

ピコは昨日やってきたばかりの新入りコインで、縁がまだピカピカしている。うちのクッションの端っこに転がり込んできたとき、「あの、ここで合ってますか?!」と三回確認してきた。かわいいやつだ。

「起きてる起きてる」とおれは答えた。「今日もいい一日になるぞ、ピコ」

「いい一日って……いきなり投入されたりしないですよね?」

「される」

「えっ!!」

ピコが転がった。コロンと一回転して、毛布クッションの端に引っかかって止まる。

「大丈夫大丈夫。投入されるのが仕事だから。それが冒険の始まりだ」

「ぼ、冒険……」

ピコは「冒険」という言葉をゆっくり噛み締めた。まだ全然信じていない顔つきだ。

その奥から、ズンと低い声がした。

「うるさい」

ドンだ。

ドンは古株中の古株で、表面の刻印がすこし薄れているほどの大ベテランだ。無口で、基本的に何も言わない。でも困ったときに限って的確なひと言をくれる。おれが一番頼りにしているコインである。

「ドンさん、おはようございます!」とピコが元気よく声をかけた。

「……ああ」

「今日もよろしくお願いします!」

「……ああ」

これが普通だ。ピコはすこし気圧されていたが、まあ慣れるだろう。

「ねえベル、あの三人は何ですか」

ピコが壁の向こうを気にした。正確には「指す」ということはできないのだが、なんとなくそっちを向いた、という感じで。

「リール三兄弟だ」

「さんきょうだい……」

ドゥン、ドゥン、ドゥン——と重低音が響いてきた。

**「「「今日もいくぞーーー!!!」」」**

三つの声が揃って轟いた。リール一号、二号、三号。いつでもどこでも全力の体育会系三兄弟だ。毎朝このかけ声で目が覚める。というか目が覚めなくても聞こえる。

「うるさい」とドンが言った。

**「「「気合いっす!!」」」**

三兄弟は全く動じない。

ピコがおれの方を向いた(比喩)。「ここ……毎日こんな感じなんですか」

「そう」とおれは答えた。「喫茶ベルーガ。ここがおれたちの家だ」

---

午前十時。ホールの扉が開く音がした。

ゴン、ゴン、ゴン——規則的な振動がクッション越しに伝わってくる。客が次々と台の前に座り始めた合図だ。

「来た来た」とおれは言った。

「来た……?」ピコの声が一オクターブ上がる。「もう来るんですか?! 早くないですか?!」

「早い日は早い。それがホールだ」

ピコはガタガタ震えた。コインがガタガタ震えるというのは比喩的な表現なのだが、ピコに限っては本当にそういう感じがする。きっとこいつはそういう体質だ。

投入口の向こうから、ぼそりと声がした。

「また始まりか」

投入口のおじさんだ。おれたちコインを毎回受け取ってくれる存在で、長いこと二番台の入口を守っている。顔は見えないし手もないが、なんとなく「おじさん」という感じがする。ちょっと面倒くさそうで、でも必ず受け入れてくれる。そういう人だ。

「おじさん、今日もよろしく!」とおれは声をかけた。

「……またお前か」

「そう、またおれです!」

「毎日毎日飽きないな」

「飽きませんよ、冒険なんだから」

投入口のおじさんはため息をついた。長年やっているわりに、いつも少しだけ面倒くさそうな顔をする。でも絶対に誰も拒否しない。それがおじさんの仕事であり、おれはそこが好きだ。

「今日は新入りがいる」とおれは言った。「ピコっていうやつで、初陣なんです。よろしく」

「また増えたのか」

「賑やかでしょう」

「賑やかすぎる」

おじさんはそう言いながらも、入り口をすこしだけ広げた。歓迎のしるしだ、とおれは知っている。ピコはそれに気づいていない様子だったけれど、まあいつかわかるだろう。

---

第2章

第二章 ピコの初陣と、冒険の意味

最初の客は、がっしりした手の人だった。

本文挿絵用、横長4:3、文字なし、スマホ読書の途中に入れても邪魔にならない静かな構図。人物を描く場合はこの作品専用の人物デザインにし、他作品の人物と顔立ち・髪型...

台の前にドカンと座り、ジャラジャラとコインを流し込んできた。その中に、おれとピコがいた。

「い、今ですか?!」とピコが叫んだ。

「今だ!」

投入口に吸い込まれる瞬間——これが好きだ。重力に引っ張られて、スルスルッと滑り落ちていく感覚。暗くて狭くて、一瞬怖くなるけれど、その先には機械の心臓部が広がっている。

ゴゴゴゴゴ——リールが動き始めた。

**「「「いくぞー!!!」」」**

三兄弟の声が轟く。

リールというのはあのグルグル回る部分で、三兄弟はそこに住んでいる。回るたびに「いくぞー!」と叫ぶのが習慣で、止まるたびに「くそー!」か「よし!」のどちらかを叫ぶ。今日も絶好調らしい。

ピコは目を回していた。「なんか……すごく揺れません?」

「揺れるよ。これが日常だ」

「日常……これが……」

**「「「止まるぞー!!!」」」**

ズン、ズン、ズン。リールが順番に止まった。

「……チェリー、チェリー、ベル」と三兄弟が報告する。

「惜しいな」とおれは言った。

「惜しい……んですか?」ピコが首をかしげる(比喩)。「えっと、どういう意味で?」

「ベルが三つ揃えば小役成立だったんだ。そうするとコインが出る」

「出る! 払い出しってやつですか!?」

「そう。払い出しは大冒険だ。トレーに飛び出して、客の手に触れて、場合によっては床まで行ったりする」

「床!! 床ってどんな場所なんですか!!」

「広い。暗い。ちょっと怖い」

「行きたいような行きたくないような……」

「そのうちわかるよ。まず流れを覚えよう」

そのとき、ズシンと振動がきた。

二回目の投入だ。

こうして、ベルーガの午前は始まっていった。

---

午前中は比較的穏やかだった。

客が入れ替わり立ち替わり、少しずつコインが回る。おれとピコは何度か投入されたり、返ってきたり、ちょっとだけ払い出しに混じってトレーの端まで行ったりした。

「ほら、これが払い出しの端っこだ」とおれは教えた。

「うわあ! 広い! 明るい!」

ピコが感動している。払い出しトレーはコインにとって開けた空間で、機械の中とは別の空気が流れている。客の手の匂いや、台のプラスチックの匂い、ホールの独特の匂いが混ざって——まあ正直にいうといい匂いかと聞かれるとそうでもないのだが——それも含めて「外の世界」の証拠だ。

「どうだ」とおれは聞いた。

「すごいです」とピコは答えた。「なんか……生きてる感じがします」

「そうだろう」

それだ、とおれは思った。生きている感じ。投入されて、回って、出て、また入る。それだけのことなのに、毎回少しずつ違う。客が違えば間合いが違う。リールの止め方が違う。トレーから見える景色が違う。同じ日は一日もない。

だから冒険なのだ。

「ベル、聞いてもいいですか」

「なに」

「コインって、なんのためにここにいるんでしょう」

哲学的な質問だ。おれは少し考えた。

「楽しませるため、かな」

「楽しませる?」

「客を。あるいは機械を。あるいは……おれたち自身を」

ピコは黙った。

「難しいこと考えなくていいよ」とおれは続けた。「ジャラジャラして、回って、出て、また入る。それが楽しければ十分だ」

「……はい!」

ピコは元気よく返事をした。

そのとき、ドンがぼそりと言った。

「お前は変わらないな、ベル」

褒め言葉だと思うことにしている。

---

「ただいま」の話をしよう。

再投入——つまり払い出しトレーから客の手で拾い上げられ、また台に入れてもらうこと——これがおれたちにとっての「帰宅」だ。

「ただいまって、どういう気持ちなんですか?」とピコが聞いてきた。

「温かい、かな。元いた場所に戻る感じだから」

「でも毎回投入されるんですよね。ただいまの次はすぐ出発じゃないですか」

「そう。だから家って感じがするんだよ。出て行って、また帰ってくる。そういう場所が家なんだ」

ピコはしばらく黙って、それからクッションの毛布をそっと確かめるように転がった(比喩)。

「……薄いですね、この毛布」

「ペタンコだよ。ずっとそう」

「でも温かいですね」

「うん」とおれは答えた。「ずっとそう」

ドンが何も言わなかった。

それが、なんとなく、肯定に聞こえた。

---

第3章

第三章 隕石が降ってきた日

昼すぎ。

静かだったホールが少しずつ賑わい始めた頃、それは起きた。

**ズガアアアアン!!!**

天地が割れた——かのような衝撃が来た。

**「「「なんだーーー!!!」」」**とリール三兄弟が絶叫した。

「え?! えええ?!」とピコが転がった。

「来た」とおれは言った。

「な、何が来たんですか! 地震ですか! ベルーガが爆発しましたか!!」

「紙袋ドバッだ」

「かみぶくろ……どばっ……?」

そう。ホールの店員さんが補充用のコインを紙袋ごと——ドバアアアッと——機械の上から流し込んだのだ。

これが通称「隕石が降ってきた」事件である。

音だけでも相当なものだが、衝撃も本物だ。ドスンドスンドスンとコインが次々と降り注いで、クッションの毛布が一瞬ふわりと浮いて、おれたちは見知らぬコインたちと一気に混ざり合った。

「うわーっ!! 知らない顔がいっぱいです!!」

「そりゃそうだ。補充されたんだから」

「この人たちは誰なんですか?!」

「よそから来たコインだよ。ベルーガに転入してきたわけだ」

新入りコインたちはざわざわしていた。「ここどこ?」「二番台って初めて」「さっきまで両替機にいたんだけど」「隣の四番台の方が広かったな」などと口々に言っている。

ドンが静かに言った。「うるさい」

新入りたちが一瞬静まった。

ドンの声には不思議な迫力がある。音量は普通なのに、なぜかよく通る。

「ようこそ、喫茶ベルーガへ」とおれは新入りたちに言った。「ここはいいとこだ。リール三兄弟がうるさいけど、投入口のおじさんが頼りになるし、毛布も——薄いけど——温かい」

「毛布?」と新入りの一枚が言った。

「クッションのことです。ペタンコだけど温かいんですよ」とピコが答えた。すっかり古株みたいな顔をしている。

「ピコ、さっきまでビビってたくせに」

「も、もう慣れましたから!」

---

隕石降臨から一時間ほどたって、ベルーガは本格的な昼の混雑になった。

客が増え、台が次々と回り始め、コインたちは忙しくなった。投入、回転、払い出し、再投入——このサイクルが怒涛の速さで繰り返される。

そのさなかに、おれは久しぶりに「床」に行った。

客が少し慌てた動きでトレーを傾けたのだ。コインが何枚かこぼれ落ちて、おれはその一枚だった。

**ガラン!**

床は冷たかった。

本文挿絵用、横長4:3、文字なし、スマホ読書の途中に入れても邪魔にならない静かな構図。人物を描く場合はこの作品専用の人物デザインにし、他作品の人物と顔立ち・髪型...

タイルの継ぎ目があって、ちょっと怖かった。足音があちこちからして——ドタドタ、ズカズカ、コツコツ——「踏まれないように」という本能的な緊張が走った。

でも——

床から見上げると、台がでかく見えた。

「喫茶ベルーガ」という機種名のプレートが上の方にある。照明に照らされて光っていた。きれいだと思った。

真下から見ると機械って大きいんだな、とおれは思った。いつも内側にいるから気づかないけれど、外から見るとこんなにでかい。そしてこんなに光っている。

しばらくして、店員さんの手が下りてきた。細い棒みたいな道具でパシッとつまんで、台の上まで運んでくれた。

「おかえり」とドンが言った。

「ただいま」とおれは言った。

「どうだった?」とピコが聞いた。

「寒かった。でも台が大きく見えた」

「かっこよかったですか?」

「うん」とおれは答えた。「すごくかっこよかった」

ピコはしばらく黙って、それから言った。

「わたしも行ってみたいかも」

「そのうち行けるよ」

「床の冒険……床険!?」

「ネーミングセンス最悪だな」

**「「「床険!! いい響きーーー!!!」」」**リール三兄弟が飛びついてきた。

「おまえらも黙れ」とドンが言った。

---

午後の中頃になると、少しだけ静かな時間がきた。

客が入れ替わるインターバルで、台がしばし静止する。こういう時間が好きだ。ジャラジャラの合間の、ほんの短い休憩。クッションの毛布がいつもより厚く感じる。

「ベル」とピコが言った。

「なに」

「朝に聞いたこと、ちょっとわかった気がします」

「どれ?」

「楽しむためにここにいる、って話」

「ああ」

「最初は怖かったんですけど、投入されてリールが回って、払い出しで外に出たとき——なんか、すごくうれしかったんです。出てきた! って感じで」

「いいじゃないか」

「で、また投入されるときも——怖いんですけど——でも、なんか楽しいんですよね。同じことの繰り返しなのに、毎回違うっていうか」

おれは少し笑った気がした(比喩)。

「それがわかれば十分だよ、ピコ」

ピコが少し照れた(比喩)。

ドンがぼそりと言った。

「……成長したな」

ピコが飛び上がった(比喩)。「ド、ドンさんに褒めてもらえた!!」

「うるさい」

**「「「ピコ成長!! 泣ける!!!」」」**リール三兄弟も大騒ぎだ。

「三兄弟もうるさい」とドンが言った。

いつものベルーガだ。

ジャラ、ジャラ——と小さな音がして、また次の客がやってきた。

---

投入口のおじさんが、珍しくこちらに話しかけてきた。

「なあ、ベル」

「なんですか、おじさん」

「あの新入りは大丈夫そうか」

おれはちらりとピコを見た。ピコは今、新しく転入してきたコインたちにベルーガの説明をしていた。「毛布は薄いけど温かいです」「三兄弟はうるさいですけど頼りになります」「ドンさんは無口ですが最強です」——なかなか的確だ。

「大丈夫そうですよ」とおれは答えた。

「そうか」

「おじさん、心配してたんですか」

「……別に」

「してたじゃないですか」

「毎回ビビる新入りが来るたびに面倒だと思ってるだけだ」

「でも受け入れてくれるじゃないですか、毎回」

おじさんは黙った。

「それが仕事だからだろうが」

「でもおじさん、一回も断ったことないですよね」

「……当たり前だろう」

その「当たり前」が、おれはけっこう好きだ。

---

第4章

第四章 大ボーナス、全員集合

夕方になった。

ホールの照明が少しだけ変わった。昼の白い光から、夕方のオレンジがかった光へ。ざわめきが増えて、台の稼働音が重なり合う。これが「夕方ラッシュ」だ。

ピコが「なんか朝と雰囲気違いますね」と言った。

「夕方はホールが生き生きしてくる」とおれは答えた。

「なんでですか」

「みんなもうひと勝負したいんだろう。帰りたくないんだよ、この台の前から」

「なんかわかるかも」とピコが言った。「わたしも、ここから離れたくないなって思ってます」

「それがベルーガの引力だ」

「引力!」ピコが感動した(比喩)。

ドンが「引力じゃない」と言った。

「そうですよ、ただの磁力ですよね」とピコが続けた。

「磁力でもない」とドンが言った。

「……じゃあなんなんですか」

「愛着だ」

沈黙があった。

**「「「ドンさんにもそういうことが言えるんだーーー!!!」」」**

三兄弟が大騒ぎした。

「うるさい」とドンが言った。でも今日一番静かな「うるさい」だった。

---

そのとき、台に座ったのは細い指の人だった。

細い指の人は、静かに座って、静かにコインを入れた。ジャラ、ジャラ、と少しずつ、丁寧に。急がない。焦らない。ただ、台と向き合っている感じがした。

「この人、上手そうですね」とピコが言った。

「そうかな」

「なんか、手つきが優しいんです」

おれも感じていた。投入のされ方というのは、案外違う。急いでいる人はドサドサ投入するし、丁寧な人はゆっくりする。細い指の人は後者だった。コインのことを、ちゃんと見てくれている感じがした。

「またお前か」と投入口のおじさんが言った。

「おじさん、夕方もよろしく」とおれは言った。

「毎回毎回……」

「おじさんもうちに愛着あるんでしょう」

「うるさい」

あれ、今日のおじさんはドンみたいだ。

おじさんは受け入れてくれた。いつものように。

---

リールが回り始めた。

**「「「いくぞー!!!」」」**

三兄弟の声が響く。いつもより声が高い気がした。

ズン——一号が止まった。「ベル!」

ズン——二号が止まった。「ベル!!」

そこで——

時間が止まった気がした。

ベルーガの中にいるコインたちが全員、息を飲んだ(比喩)。

ピコが「あ……」と言った。

ドンが姿勢を正した(比喩)。

投入口のおじさんが「……来るか」とつぶやいた。

三兄弟の三号が、ゆっくり、ゆっくり——

止まった。

「ベル!!!」

―― **ビッビッビッビッビッ!! ドドドドドド!!!** ――

機械の中で何かが弾けた。

音楽が鳴り始めた。派手な、祭りのような、全力の音楽が。

**「「「大ボーナスーーーーーーー!!!!!!!!」」」**

リール三兄弟が絶叫した。

---

そこからは嵐だった。

**ドドドドドド!!**

**ジャラジャラジャラジャラ!!!**

払い出し機構がフル稼働して、コインたちが次々と吐き出された。おれもその中にいた。ピコも、ドンも、今日来たばかりの新入りたちも、みんな一緒に——

「うわあああああ!!!!」とピコが叫んだ。

「これが大ボーナスだ!!」とおれは叫んだ。

**「「「行くぞ行くぞ行くぞーーー!!!!」」」**と三兄弟が叫んだ。

「……!」とドンも叫んだ(つまり何も言わなかったが、たぶん叫んでいた気がした)。

払い出しトレーに飛び出した瞬間の、あの感覚。

狭い場所から、急に広い場所へ。暗い場所から、明るい場所へ。ジャラジャラジャラジャラ——まるで全員で走っているみたいだ。全速力で、一斉に、外へ。

細い指の人が「あっ」と小さく声を上げた。

トレーがコインで溢れていく。ジャラジャラジャラ——景気のいい音が止まらない。コインが積み重なって、輝いて、あふれて——

「ベル!! ベル、これが冒険ですか!!」

「これが冒険だ、ピコ!!」

「すごいです!! 外が見えます!! 光が!! ぜんぶキラキラしてます!!」

そうだ。ボーナスの瞬間は特別だ。ただの払い出しとは違う。全員で飛び出す、全員で叫ぶ、全員で光を浴びる——この瞬間のためにおれたちは毎日回っているのかもしれない、という気さえする。

**ドドドドドド、ジャラジャラジャラジャラ——**

音楽が鳴り続ける。

新入りたちも叫んでいた。「ベルーガすごい!」「転入してよかった!」「毛布あったかかった!!」

おれは笑った気がした(比喩)。

でもたぶん笑っていた。

---

やがて、払い出しが落ち着いてきた。

トレーにはコインが山になっていた。細い指の人がうれしそうに手を当てている。その手の温かさが伝わってくる。ゆっくり、丁寧に——さっきの投入と同じ手つきで、コインたちをすくい上げていった。

「いい一日だったな」とおれはつぶやいた。

「最高でした!!」とピコが答えた。「朝ビビってたのが嘘みたいです!」

「成長したじゃないか」

「ドンさんにも言ってもらえました!」

「一回しか言ってない」とドンが言った。

「一回でも最高です!!」

**「「「いい話ーーー!!!」」」**と三兄弟が叫んでいた。

投入口のおじさんがため息をついた。「賑やかだな、今日は」

「いつもと同じですよ」とおれは言った。

「同じか? いつもより五割増しでうるさい気がするが」

「気のせいです」

「……まあ」とおじさんは言った。「悪くない一日だったけどな」

それはおじさんの珍しい言葉だった。おれは少し驚いた。

「おじさんもそう思いますか」

「たまにはな。お前らが楽しそうだと、こっちも悪い気はしない」

「それ、さっきドンさんが言ってた『愛着』ですよ」

「面倒くさいコインだな、お前は」

「ありがとうございます」

おじさんはため息をついた。でも今度のため息は、すこし軽かった。

---

夜が来た。

ホールの照明が落ちて、静かになった。

コインたちはそれぞれの場所に落ち着いて、くたびれた毛布クッションに戻っていく。新入りたちも、今日一日でなんとなく自分の場所を見つけたらしかった。みんな思い思いに転がって、静かになっていく。

おれもそこに収まった。温かかった。ペタンコだった。でも好きだった。

「ベル」とピコが言った。

「なに」

「明日も冒険できますか」

「できるよ」とおれは答えた。「毎日できる。それがここだから」

「じゃあ……また明日も、いくぞーって言っていいですか」

「それは三兄弟のセリフだ」

「え、ダメでしたか?」

**「「「ダメじゃないぞーーーー!!!」」」**と三兄弟が遠くで叫んだ。

「うるさい」とドンが言った。

でも——おれには聞こえた気がした。

ドンの「うるさい」が、いつもより一音だけ、やわらかかった。

---

ジャラ。

ジャラ、ジャラ。

明日も、喫茶ベルーガは回る。

おれたちは今日も旅をする。

(了)

After Reading

読後の余韻に、次の一編を。

ほんすこ編集部レビュー

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